東京地方裁判所 平成9年(ワ)3259号 判決 1997年9月02日
原告
荒木英子
被告
本郷千枝子
主文
一 被告は、原告に対し、金五一五万四一四八円及びこれに対する平成三年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余は、被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告に対し、一五一二万八〇一四円及びこれに対する平成三年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言
第二事案の概要
一 本件は、交通事故により傷害を受けた原告が、加害車両の運転者である被告に対し、損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実
1 本件交通事故の発生
原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、頭部打撲、頸椎捻挫、顔面・四肢・左腰部打撲及び打創、右大腿骨骨折、左膝皮膚欠損の傷害を受けた。
事故の日時 平成三年三月二日午前八時〇五分ころ
事故の場所 千葉県野田市岩名一二一四番地先路上
加害車両 普通乗用自動車
右運転者 被告
被害車両 普通貨物自動車
右運転者 原告
事故の態様 原告が被害車両を運転して土手沿いの道路を進行中、加害車両が後方から被害車両を追い越そうとして反対車線に出た際、折から対向車両が進行してきたため、急ハンドルで元の車線に戻ろうとして被害車両と接触し、被害車両が土手から転落しそうになり、やむなく、原告が右にハンドルを切ったところ、対向車両と衝突した。
2 責任原因
被告は、対向車両の動静に注意せず、無理な追越しを行った上、ハンドル操作等を誤った過失により、本件事故を引き起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。
3 原告の治療状況と後遺障害
(一) 原告は、本件事故による傷害の治療のため、門倉病院において次の治療を受けた。
入院(合計六〇日)
平成三年三月二日から同年四月一七日まで四七日間
平成七年七月二一日から同年八月二日まで一三日間
通院(実日数九六日)
平成四年四月一八日から平成七年八月末ころまで
(二) 原告は、平成七年八月症状が固定し(当時二七歳)、自賠責保険の事前認定手続により自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下単に「後遺障害等級」という。)一二級一四号(「女子の外貌に醜状を残すもの」)に該当するとの認定を受けた。
4 損害の一部填補
原告は、自賠責保険等から六六五万四〇三六円の填補を受けた。
三 本件の争点(損害額)
1 原告の主張
(一) 治療費 二四九万九九三八円
(二) 入院付添費 六〇万〇三六六円
(1) 一回目の入院時 五四万二九八一円
原告は、入院期間中、職業付添人の介護を受け、その費用として、右の金額を要した。
(2) 二回目の入院時 五万七三八五円
原告は、入院期間中、原告の夫の実母の介護を受けた。
(三) 通院交通費 四〇万七五四〇円
(四) 入院雑費 七万八〇〇〇円
一日一三〇〇円の六〇日分。
(五) その他費用 四万五七〇〇円
(六) 休業損害 合計三四八万一三四〇円
(1) 一回目の入院時 三一八万八〇一一円
(2) 二回目の入院時 二九万三三二九円
(七) 逸失利益 七七九万三八九二円
原告は、平成七年八月の症状固定当時(二七歳)、専業主婦として家事労働に従事していたものであるが、本件事故に遭わなければ、症状固定時から六七歳までの四〇年間にわたり、少なくとも、平成六年賃金センサス女子労働者学歴計全年齢平均の賃金額である三二四万四四〇〇円の収入を得られたものと推認されるところ、自賠責保険により事前認定を経た後遺障害等級一二級に相当する、一四パーセントの労働能力を喪失したものであるから、ライプニッツ方式により中間利息を控除し、症状固定時の逸失利益の現価を算定すると、右金額となる。
(八) 慰謝料 合計五五〇万〇〇〇〇円
原告は、本件事故により入院六〇日、通院約一六月に及ぶ治療を受けたほか、本件事故により体中に傷が残り、とりわけ顔面、額、右大腿部等には現在も傷痕が残り、女性として、また、母として、多大の精神的苦痛を受けており、これを金銭に換算すれば、入通院慰謝料として二五〇万円、後遺症慰謝料として三〇〇万円の合計五五〇万円とするのが相当である。
(九) 弁護士費用 一三七万五二七四円
2 被告の認否
原告の損害のうち、(一)治療費、(二)入院付添費、(三)通院交通費、(五)その他費用、(六)休業損害については認めるが、その余の損害、とりわけ、(四)入院雑費(一日当たり基礎金額)、(七)逸失利益、(八)慰謝料については、いずれも争う。
第三当裁判所の判断
一 原告の損害額について
1 治療費 二四九万九九三八円
当事者間に争いがない。
2 入院付添費 六〇万〇三六六円
一回目、二回目に要した入院付添費の金額について、いずれも当事者間に争いがない。
3 通院交通費 四〇万七五四〇円
当事者間に争いがない。
4 入院雑費 七万三三〇〇円
原告が本件事故による傷害の治療のため、平成三年中に四七日間、平成七年中に一三日間入院したことは、当事者間に争いがなく、入院雑費としては、平成三年分につき一日一二〇〇円、平成七年分につき一日一三〇〇円とするのが相当であるから、入院雑費は、次式のとおり、七万三三〇〇円となる。
1,200円×47日+1,300円×13日=56,400円+16,900円=73,300円
5 その他費用 四万五七〇〇円
当事者間に争いがない。
6 休業損害 合計三四八万一三四〇円
一回目、二回目の入院による休業損害の金額として、いずれも当事者間に争いがない。
7 逸失利益 認められない。
原告が本件事故により頭部打撲、頸椎捻挫、顔面・四肢・左腰部打撲及び打創、右大腿骨骨折、左膝皮膚欠損の傷害を受けたこと、平成七年八月原告の症状が固定し、原告が自賠責保険の事前認定手続により後遺障害等級一二級一四号(「女子の外貌に醜状を残すもの」)に該当するとの認定を受けたことは、いずれも当事者間に争いがなく、また、甲一、四、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、会社員として就業していたものであるが、その後、婚姻し、症状固定時、専業主婦として家事労働に従事していたこと、現在も、右膝、両足の脛部に傷痕が残っているほか、雨天等の際、右大腿部の手術部位にしくしくした痛みを感じることがあること、額の傷痕に頭髪が生えてこず、その周囲がでこぼこになっていること等が認められるが、これらが原告の主婦としての労働能力に影響があることを認めるに足りる的確な証拠はなく、仮に、原告が今後就職する可能性があることを考慮に入れても、外貌醜状等の存在により、原告の就職先が相当程度制限され、または、労働能力の喪失をもたらすことを具体的に推認させるに足りる的確な証拠は全くないから、原告の後遺障害を理由とする逸失利益を認めることはできないというほかない(なお、この点は、慰謝料において斟酌することとする。)。
8 慰謝料 合計四五〇万〇〇〇〇円
原告の傷害の部位程度、入通院期間、後遺障害の部位程度、前記のとおり、後遺障害慰謝料が認められなかったこと、その他本件に顕れた諸般の事情を総合斟酌すれば、原告の慰謝料は、入通院慰謝料として一五〇万円、後遺症慰謝料等として三〇〇万円の合計四五〇万円と認めるのが相当である。
9 右合計額 一一六〇万八一八四円
二 損害の填補
原告が自賠責保険等から合計六六五万四〇三六円の填補を受けたことは、当事者間に争いがないから、右填補後の原告の損害額は、四九五万四一四八円となる。
三 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情を総合すると、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、二〇万円と認めるのが相当である。
四 右合計額 五一五万四一四八円
第四結語
以上によれば、原告の本件請求は、五一五万四一四八円及びこれに対する本件事故の日である平成三年三月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項本文を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 河田泰常)